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2012年 01月 30日
「刑事控訴審における事実誤認の審査方法」(井戸判事・判例タイムズ1359・63)
事実誤認における審査方法についての「経験則・論理法則違反説」とは、第一審の事実認定に経験則・論理法則違反がある場合(又は不合理な場合)に限り、第一審に事実誤認があるとする考え方であり、控訴審は第一審の事実認定の過程を審査すべきとするものなのだという。 そこでいう経験則・論理法則の意味する内容とはどのようなものなのであろうか。前記論文は、経験則にも確実性の大小に応じた広狭があることを示唆する。 さしあたり、第一審と控訴審との間で心証に食い違いを生じるパターンとして良く見られそうなものとして、①そもそも、第一審と控訴審の証拠構造のとらえ方が異なるケースと、②問題となっている争点が、規範的判断である法令の適用と不可分密接に関連しているケースを考えて見る。 ①の例としては、たとえば、共謀の有無が争点となっているケースで、原審は、直接証拠である自白の信用性によって結論を決すべきケースだととらえた上で、客観的証拠により裏付けられた被告人の行動と自白内容に看過しがたい食い違いがあるとして自白の信用性を否定し、無罪の判断に至ったところ、控訴審では、原審では自白の信用性の裏付けとして検討された被告人の行動自体が、自白の信用性を判断する補助事実としてのみならず、共謀の事実そのものを推認させる情況証拠(間接事実)だととらえた上で、これにより共謀の事実なくして説明のできない行動であると評価した場合が考えられようか。(もっとも、この場合でも、情況証拠から共謀が直接推認できるという説示にとどまらず、証拠上認定できる被告人の行動に沿わない内容の自白部分は信用できないが、共謀事実にについて自認した供述の根幹部分はなお信用できるという説示がされるであろうから、結局は自白の信用性という経験則の問題なのだと言ってしまえばそれまであるが、犯行への関与を「ほのめかし」消極的に認める趣旨の供述部分しか残らないのであれば、その証明力に照らしてわざわざ自白部分を信用できると説示する必要性にも乏しく、端的に情況証拠の検討で足りよう。) このような場合、原審の証拠構造のとらえ方を一応前提とした上で、その枠組みでの判断過程・推認過程に不合理がないかに限り、控訴審は審理判断できるという考え方まで経験則・論理法則違反説は含意しているのか。それとも、証拠構造のとらえ方も、経験則・論理法則の適用の一場面であるとして、控訴審のとらえ方と異なる場合にはこれが不合理といえる場合には事実誤認とできるとするのか。前者であれば、なかなか実務の支持は得られがたいように思われる(もっとも、証拠構造のとらえ方の誤りは、もはや手続違背の問題なのだと割り切るのかも知れないけれど、争点外認定と異なり第一審にいかなる誤りがあったとするのか明確にし難い)し、後者であるとすると、証拠構造のとらえ方がどこまでが不合理といえ、どこまでが不合理とまではいえないこととなるのか、そもそも不合理と考えるのは、もはや控訴審独自の心証との食い違いを判断過程に反映させて説明しているだけではないのかという気もしないでもない。 ②の例としては、たとえば、薬物事犯の薬物の認識の有無について、第一審と控訴審の認定が食い違うことが考えられる。その内容について見ると、被告人は、目的物が特定の規制薬物であることについて、不確実ながらうすうす疑念を持つ30パーセントの認識を有していたはずだ、あるいはほぼ間違いないと推測している80パーセントの認識を有していたはずだ、という裸の事実認識の問題と、これを前提として規制薬物である相当程度の蓋然性である50パーセント以上の認識を有するものは「罪を犯す意思」すなわち故意があると評価すべきであるという規範的判断ないし法令適用の問題に分析できよう。もっとも、実際には故意の認定という一つの争点につき不可分の判断として評議されているのではないかと思われる。規範的評価の要素をぬぐいきれない形で示される故意の認定について、控訴審は自らの価値判断と評価をもって経験則・論理法則の基準とするのか。それとも、第一審が裁判員裁判である場合には特に、国民から直接選任された裁判員が法令の適用にも関与できる法構造を背景に、国民の法意識を直接代表する裁判員の規範的判断たる性質を含む規範的事実の認定は、ことに価値判断に関わる側面については尊重されるべきであるとするのか。 いずれにせよ、控訴審の審査を、逆転有罪方向についてはより消極的外形的なものに限定すると、その審査内容は不利な判断を受けた検察庁のいわゆる控訴審議に一面似たものになるのかも知れない。
by humitsuki
| 2012-01-30 22:11
| 刑事法
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